カーボンニュートラル実現に向けて ‐本格始動する「地域マイクログリッド」で地域の災害対応に貢献‐

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2021年5月、武蔵精密工業(以下、ムサシ)は、事業活動でのカーボンニュートラルの実現を2038年までに目指す「ムサシカーボンニュートラル宣言」を発表しました。

関連して、CO2削減に貢献するエネルギーソリューション事業創出を目的に始まったのが「地域マイクログリッド」の構築・運用プロジェクトです。マイクログリッドとは、平常時には再生可能エネルギーを自社で効率よく利用し、非常時には送配電ネットワークから独立し、エリア内でエネルギーの自給自足を行う送配電の仕組みです。 非常時の停電を回避し、エリア内の再生可能エネルギーなどを地産地消できるため、平常時、非常時の双方においてメリットがあります。太陽光発電による再生可能エネルギーの有効活用とカーボンニュートラルへの貢献、地域社会の災害レジリエンス(災害を乗り越える力)強化を狙いとしてスタートしました。

2024年4月には「Energy Solution事業開発部」が新設され、エネルギーソリューション領域の活動がいよいよ本格化します。地域マイクログリッド構築における、これまでの取り組みと今後の展望について、プロジェクトのLPL(Large Project Leader)を務めた高森直宏さんとPL(Project Leader) 小久保利記さん2人に話を聞きました。
高森 直宏(たかもり なおひろ):左写真
エネルギーソリューション事業創出プロジェクトのLPL(Large Project Leader)として、地域マイクログリッド構築の推進を担当。同プロジェクトにおいて、米国や日本国内での新規事業開発も担っている。2024年4月よりEnergy Solution事業開発部 部長に就任。


小久保 利記(こくぼ としのり):右写真
研究開発部 スマートパワーシステム開発Gr.のグループマネージャーとして、電力ハードウエアとマネジメントシステム開発に携わってきた。地域マイクログリッドのプロジェクトにおいては、対象地域の電力運用状況をもとにシステム仕様設計と各機能へ技術要求するなどPL(Project Leader)の役割を担ってきた。2024年4月よりEnergy Solution事業開発部へ配属。EMS・ESSプロジェクトのPLに就任。

ムサシの強みを活かす、地域マイクログリッド構築

──まずは、地域マイクログリッドの概要について教えてください

高森:マイクログリッドとは日本語で、小規模電力網や分散型電力網と訳されます。特定のエリアで再生可能エネルギーを自給自足・地産地消で効率よく運用し、災害時には送配電のネットワークから独立させ電力供給をするような仕組みです。2023年には、豊橋市にあるムサシの本社工場(新南工場)と周辺地域をマイクログリッドの範囲に設定し、プロジェクトを推進してきました。

ここでの再生可能エネルギーとは、太陽光パネルや蓄電池を使った自家発電システムを指しており、平常時には再エネ自家発電システムによる電力利用を増やすことで、生産現場の電気代の削減とカーボンニュートラルの推進に寄与すると考えます。
また、災害などにより停電が発生した際には発電所の役割を担うことが可能です。また、周辺施設へ電力供給をすることにより、地域の災害レジリエンスの強化が期待できます。



──ムサシが地域マイクログリッドの取り組みを始めた背景は何でしょうか?

高森:最大の理由は、2021年の「ムサシカーボンニュートラル宣言」でした、CO2削減目標を達成するためです。同じ頃エネルギーソリューション事業創出プロジェクトが発足し、その中の1つの手段として地域マイクログリッドを自分たちでやってみようとなりました。

また、ムサシの子会社である、武蔵エネルギーソリューションズの存在も大きかったです。同社が手掛ける『HSC(ハイブリッドスーパーキャパシタ)』が強みとして活かせる可能性があったため、地域マイクログリッドの構築・運用が視野に入ってきました。

小久保:HSCは、瞬間的な電力供給の能力が高いため、停電などの非常時には抜群の性能を発揮します。太陽光発電による電力利用のシーンでも、日が陰るなど発電量に変動がある場合にも安定的に電力供給できるのが特徴です。

また、プロジェクトを推進する上で、最初の実証実験場に本社工場内の新南工場を選んだことにも理由があります。新南工場はムサシグループにおいて、先行してスマートファクトリー化を進めています。AI、DXの取り組みと同様にGXの先鋭的な取り組みである、地域マイクログリッドの実装にも最適だと考えました。

太陽光パネルの発電量は250kWほどあるのですが、まずは25分の1のサイズで小さく始め、工作機械を動かせるかどうかをテストしたのが始まりです。工作機械は非常に電力の変動が激しいため、そこをクリアできれば周辺地域の避難施設へ電力変換も可能ではないかという仮説のもと、プロジェクトはスタートしました。

開始から4年目を迎える、地域の共創プロジェクト

──2021年に開始されたプロジェクトですが、時系列ではどのようなストーリーで進行したのでしょうか?

高森:2021年の秋頃までは、社内でさまざまな方向性の検討がありました。具体的に動き始めたのは同年の10月頃で、豊橋市との協力による地域マイクログリッド構築に向けて、補助金(※)を活用しながらプランを策定しました。定期的に地域事業者や有識者を招聘(しょうへい)し、共同検討会を開催。システム開発の進め方や安全性を確認頂きました。

2023年2月には ムサシを含む9事業者がコンソーシアム協定を締結し、大規模災害時の電力供給を通じた「地域と企業が一体となった持続可能な社会の実現」に向けて、具体的な活動もスタートしました。地域マイクログリッドの構築に向けた住民への説明会も継続的に実施してきました。

2024年2月にマイクログリッドの機器設置工事を完了し、本格稼働を開始しています。

※…経済産業省「令和3年度 地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金(地域マイクログリッド広域支援事業のうち、導入プラン作成事業)」に採択

リスクに挑み、未来の電力供給システムに貢献する

──開始から現在まで、丸3年以上をかけたプロジェクトです。困難に直面した場面もきっとあったと思います

高森:プロジェクトの開始から半年ほどがたった頃、大きな方向転換を余儀なくされる場面がありました。2022年には半導体不足などの影響で必要な機器が入手できず、スケジュール通りに進まない状況を何度も経験しています。資金計画で難航したこともあり、いつ会社からプロジェクトの中止を言い渡されてもおかしくなかったと思います。

それでも続けてこられたのは、挑戦のDNAが全社に浸透していたからです。経営陣からも、困難な状況だからこそ乗り越えてほしいと応援されることが多く、私を含むプロジェクトメンバーも絶対にやり抜くという気概にあふれていました。

地域マイクログリッド構築は非常に先進的な取り組みで、他社の大手自動車メーカーの技術者からも「自社でもチャレンジしたが実現できなかった」と驚かれたことがあります。こうした反応が得られる点もモチベーションになり、ここまで続けることができました。まさにムサシに受け継がれる挑戦のDNAが成した業だと思います。



──技術面では、何がもっとも難しかったでしょうか?
小久保:少し専門的な話になりますが、このシステムは、一般的な交流方式ではなく、太陽電池、蓄電池、コージェネレーションシステム、HSCを直流(DC)でつなぐ方式を採用しています。この方式は電力効率や各機器の強みを生かすために選択しました。反面直流は電気入切や電気的安全にリスクがあり工夫が必要となります。専門家の先生方も我々のチャレンジに驚いていました。



──リスクを抱えながらも挑戦しようと思ったのは、なぜですか?

小久保:未来に役立つ取り組みにしたいと思いました。従来は遠くの発電所で作られる電気は、送電線を通じて各家庭に「交流」で送られます。ところが今後は、一極集中の化石燃料を燃焼させる火力発電は減少し、需要の近くでEVを含めたリチウムイオン電池や太陽光電池、水素燃料電池など分散した小規模電源が増えます。これらの分散電源は「直流」で発電(充放電)します。

それであれば、今回の地域マイクログリッドで使用するシステムも、未来を見据えて「直流」で構築すべきだと考えました。日本のエネルギー問題を考える上で、誰かがやらなければいけないことは明らかです。仮に課題を残す形になったとしても、その結果を次のプロジェクトに活かすことができます。エネルギー業界の未来に貢献するため、この機会にリスクを取ってまでチャレンジすることは、私の中では必然の取り組みでした。

中小製造業のカーボンニュートラルを強力に後押し

──ムサシ地域マイクログリッドは、今後どのような飛躍を目指していますか?

小久保:今回のプロジェクトを通じて、微力ながら日本全体のカーボンニュートラル実現に寄与できるのではと考えています。日本政府が2050年のカーボンニュートラル達成を打ち出したことで、大手製造業だけでなく中小企業にもCO2排出量の削減施策が求められるようになりました。しかし、資金や専門的知識、ノウハウがない中で中小企業がCO2削減の達成目標を果たすのは簡単なことではありません。

こうした状況に対して、ムサシの地域マイクログリッドシステムは、限定されたスペースやエリアを使った自給自足・地産地消の電力供給が可能になります。

震災などで発生する停電などのリスクを考えても、マイクログリッドシステムの普及は社会に大いに役立ち、日本のカーボンニュートラル実現にも寄与できると考えています。

高森:技術に対して特許は取っていますが、その使用を制限しようとは考えていません。むしろ多くの企業や自治体に導入してもらいたいと考えています。個別にマイクログリッドを構成するシステムを販売してもいいですし、これまでに培ったノウハウをコンサルティングという形で提供しても良さそうです。

今回はカーボンニュートラルの実現に向けて地域マイクログリッドが手段になりましたが、ほかにも多くの方法があるはずです。2024年4月には「Energy Solution事業開発部」がムサシに新設されました。エネルギー領域の社会課題解決に向けた、さらなる取り組みも可能になると思います。ムサシフィロソフィーというDNAのもと、今後も未知の領域への挑戦を続けていきたいです。

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