『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』出版記念-サステナブル経営に見るムサシの挑戦-

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2023年、社外取締役の小野塚 惠美氏が自身初の単著となる「サステナブル経営とサステナブル金融の接続」の出版を記念し、都内で出版記念セミナーを開催しました。

著書内では、製造業のサステナブル経営の事例として武蔵精密工業株式会社(以下、ムサシ)が取り上げられており、本セミナーでもムサシ社長、大塚 浩史が登壇。「ESG・サステナブル経営」をテーマに小野塚氏と行った対談の内容を中心にお伝えします。
【プロフィール】

小野塚 惠美(おのづか えみ)
エミネントグループ株式会社代表取締役社長CEO 武蔵精密工業株式会社社外取締役(2022-)
グローバルな金融機関で20年以上資産運用に携わる 
機関投資家として、ESGリサーチ、企業との対話を年間200件以上実施。専門分野はサステナブルファイナンス(ESG、インパクト投資)
「ESGの女神」として知られ、研究、執筆、講演、歌手など、幅広く活動している。

自身初となる単著を出版

本書においてサステナブル経営とは「株主(企業のオーナー)をはじめとするステークホルダーに価値を提供しながら持続可能な社会への貢献を目指す経営」(本書1.1「サステナブル経営とは」より)、つまり、持続可能な社会の実現に貢献しながらも、自社の売り上げや利益が持続的に生み出されるような経営体制と位置付けられています。

日本の製造業において、グローバルな競争環境の中で地位を再構築し、持続的に高い利益率を維持するためには、サステナブル経営を基礎とした事業ポートフォリオの見直しが必要と論じたうえで、そこにはいくつかの「罠」があり、その罠を乗り越えるためには「DX思考」によるデジタル技術を活用した改革が必要と指摘しています。

そうした中、小野塚氏が注目したのは、100年に一度の大変革期を迎え、事業ポートフォリオの見直しを迫られる自動車業界です。ムサシの経営層に取材をし、ムサシがいかに「罠」を回避し、「DX思考」を有効的に経営改革に取り入れているかを7時間以上にかけてヒアリング。小野塚の論を裏付ける結果となりました。

出版を記念したセミナーでは社長の大塚が登壇。サステナブル経営に向けた改革に必要ないくつかの要素についてお話をしました。

ムサシが目指す攻めのガバナンス

小野塚 惠美(以下、小野塚):本日はお越しくださいましてありがとうございます。私とムサシとの出会いは2019年頃、知人に「ESGに力を入れ始めている面白い会社がある」と紹介されたのがきっかけです。

当時所属していたゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの一投資先としてお会いしましたが、その後も何度も意見交換の機会をいただき、今回著書でムサシを取り上げることになりました。


大塚 浩史(以下、大塚):お招きいただき大変光栄です。小野塚さんには2019年以来、ESGの専門家として様々なアドバイスをもらってきました。昨年にはついにムサシの社外取締役にも就任いただき、取締役会においても様々なご意見をいただいています。


小野塚:早速、取締役会の視点から本題に入っていければと思います。著書内で私は、製造業がサステナブル経営へ変革する「処方箋」としてDX思考に注目しています。DX思考の1要素としてカバナンスの視点を盛り込んだことは、私独自の視点です。

ムサシの社外取締役に就任し、取締役会のガバナンスがとても機能しているように感じます。社長から見ていかがでしょうか。


大塚:取締役会の構成・運営ともに、ガバナンスがよく機能してきていると感じています。
現在、取締役11名のうち外国籍の方が2名、女性が4名おられます。ダイバーシティが高く、それぞれの専門も様々で、活発な議論がなされてきました。社外取締役を交えた活発な議論は、執行側の役員に大きな刺激を与えています。


小野塚:2022年、エンゲージメントの観点から、取締役の議長を大塚社長から宗像社外取締役に変更されましたね。その経緯と変更に当たってのお考えをお聞かせください。


大塚:これも社外取締役からの提案でした。よくよく考えれば、執行側の長である私と、それを監督する取締役の議長が同じというのはおかしな話ですよね。交代していただいて、社内に一本太い規律が入ったような感覚をもっています。取締役会の企画段階から、社外取締役である議長が入ってくれることも心強いことです。

知り合いの経営者から、社外の方が議長だと、事務方の事前準備が大変ではないかと聞かれるのですが、そうならないように情報をオープンにすることを心がけています。実はムサシでは年に2回役員で合宿を行って、執行側・取締側の垣根なく、足並みを揃えるようにしています。

テクノロジーを活用したビジネスモデルの構築

小野塚:今回の著書では、サステナブル経営を基礎とした製造業の事業ポートフォリオ見直しに注目しています。ムサシの新規事業と新たなビジネスモデル構築について教えてください。


大塚:ムサシは85年の歴史のうち、60年くらいは自動車の部品を主力事業として発展してきましたが、自動車業界は今、100年に一度の大変革期と言われています。
EVが普及すると、現在いただいている仕事の半分から8割近くが無くなるという予想に、大きな危機感を感じたことがきっかけです。今の延長線上に未来がないのなら、新規事業を生み出して育てようと、社を挙げて新規事業創出に取り組んでいます。


小野塚:変革に対する許容度が非常に高いことはムサシの大きなアドバンテージだと思います。


大塚:日本は自動車の製造販売において、世界シェア3割を誇ります。半世紀以上成功し続けてきた業界なのです。成功者ほど現状を変えるのにエネルギーや勇気が必要です。今でさえ、EVは普及しないなんて論調もあるくらいですから、日本の自動車業界において変革を起こすことはかなり難しいことだと思います。

ただ、私はムサシのことを、自動車業界のサプライヤーではなく、テクノロジーの会社だと捉えています。85年の歴史の中で、時代の要請とテクノロジーを掛け合わせ、航空機部品、ミシン部品、自動車部品といくつもの価値を提供してきました。
これから先、内燃機関車がなくなっていく中でそれにしがみついても、ゆっくり衰退していくだけです。今まで培ってきた、ものづくりのテクノロジーや技術を生かして、世の中に新しい価値を提供していきたいと思います。


小野塚:具体的にどのような新規事業に取り組んでいますか。


大塚:例えば、AIを活用した外観検査機の事業は、商品をローンチし、実際に受注をいただくまでに成長しました。豊田自動車の本社工場に導入いただくなど、実績を積んでいます。

事業立ち上げのきっかけは、製造現場の困りごとを解決したいという思いからでした。ムサシでは本社工場だけでも1日に10万点近い部品を製造しています。1ラインごとに1000~2000個もの製造部品を、最後は全て人の目で検査していました。ベテランの作業者でもかなりの忍耐と集中力を要する作業です。

昔からこれを自動化したいと考えていました。そこで、新しいテクノロジーの代表である、AIとロボットを活用できないかと考えたのがきっかけです。我々は他のAI事業会社と違い、AI事業部の側に広大な製造現場を有しています。開発した機械はさっそく我々の製造現場で試してみることが可能ですから、テクノロジーにものづくりの力を活用した大きなアドバンテージだと考えています。

また、AI同様に注力しているのが農業です。繁忙期で人手を求めている農家と、短期間働きたい人の人材マッチング事業を展開しています。部品製造と農業は一見交わらない業界のように感じますが、同じものを大量につくるという点で共通点があります。

どの作業者でも同じ部品を製造できるようにするマニュアル制作のノウハウを転用し、農業の作業動画を制作しています。これにより、初心者の働き手でも安心して応募することが可能になりました。これも、新規事業にものづくりノウハウを掛け合わせた一例です。

サステナブル経営のグローバル化

▲社内研修で講師として登壇


小野塚:私の目から見て、サステナブル経営の変革も着々と進んでいるように思います。大塚社長の目から見て、課題だと感じている部分はありますか。


大塚:我々の挑戦や変革に対して、ステークホルダーからの理解や支持を得ることです。特に従業員からの理解を得ることが難しい。国内の従業員には定期的に戦略を説明することができ、新たな挑戦に取り組む社員も増えていますが、ムサシは世界中に36の拠点を有し、従業員の85%は外国籍の社員です。変革や多様性のグローバル化がこれからの課題です。

そういった意味で、小野塚さんはダイバーシティを推進へのアンテナが高いように感じています。女性の取締役として、自身の役割をどのように感じていますか。


小野塚:ESG/サステナビリティを専門として取締役に就任していますが、女性の取締役としてムサシに貢献できることも多々あると感じています。
例えば今年度、仕事と育児を両立する女性社員とともに、ランチ会を企画しました。今のところは仕事と家庭の両立に関する悩みを共有する会ですが、ゆくゆくは様々なバックグラウンドを持つ社員が長く働ける環境づくりにつながればと思っています。

また、昇給などの待遇が女性に不利な制度になっていないか、女性の役職者比率を向上させるための施策や計画がきちんと練られているかを監督し、取締役会で進言するようにもしています。

サステナブルな未来を創る冒険へ

小野塚:金融の世界において、企業はアセット(資産)を生み出すアセットクリエイターと表現されますが、時として企業は新たな事業へ出資を行うアセットオーナーにもなり得ます。実際、ムサシはアセットオーナーとして海外の事業に出資を行っています。CVC領域におけるムサシの取り組みについて教えてください。


大塚:ムサシがCVC領域に本格的に取り組み始めたのは、5年ほど前です。きっかけはアメリカのシリコンバレーを訪問したことでした。人材や資金が集まり、なにより挑戦や失敗を許容する風土に感銘を受けました。同時に、日本でも同じことが可能なはずだと直感しました。新しい挑戦をする人の支援をし、我々とのシナジーを創ることを目指しています。今はアフリカへの出資を積極的に行い、出資先それぞれが芽を出そうとしています。

ただし、新規事業への投資は一定のリスクをはらんでいます。だからこそ、ムサシのように長年の蓄積資本がある企業が積極的に行うべきことだと思い、活動しています。ステークホルダーの皆様、特に金融関係者の皆様には、このような挑戦にご理解をいただき、共に新しい価値を創るパートナーとして伴走いただきたいなと思っています。

最後になりますが、今回のご著書はマゼンダカラーを使っています。経済系の書籍では珍く、驚きました(笑)
変革へのエネルギーに溢れた小野塚さんらしいと思いました。また、ムサシをあれだけ深く分析いただき、私としても大変刺激になりました。

本書がたくさんの方に届くことを楽しみにしています!


書籍について、詳しくはこちら!
サステナブル経営とサステナブル金融の接続

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