ムサシのEV新規事業「ユニコーンプロジェクト」──電動二輪ユニット開発にかける想い(PL 桜井将敏)

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武蔵精密工業(以下、ムサシ)の電動二輪を開発・販売する「ユニコーンプロジェクト」。今回お話いただくのは、プロジェクトリーダーの桜井将敏さんです。2012年に中国へ赴任して以来、急速に塗り替わるモビリティ社会を目の当たりにしてきました。

これから二輪市場にもEV化の波が来る。その日を見据え、モノづくり企業ムサシのユニコーンプロジェクトが展開すること、これまでの枠を超えて挑戦すべきことを語ります。
桜井 将敏
2008年10月、武蔵精密工業へ入社。現二輪事業の営業、四輪の現L&S (Linkage & Suspension) 事業の営業を経て、2012年4月に中国へ赴任。市場が拡大していく中国で新工場の設立、拡張にも携わる。営業拠点のマネジメントにも貢献。2021年に日本へ帰国後、同年8月より社内新規事業「ユニコーンプロジェクト」に参画。2022年1月からはプロジェクトリーダーとして事業を牽引する存在へ。

あっという間に成長した中国のEV市場

電気自動車を始め、EVに関するニュースを耳にする機会が増えました。しかし日本で暮らす生活者にとってはまだ、実感が薄いのが現実だと思います。本当に今あるガソリン車が電気自動車に置き換わるのだろうかと。

しかし私は、中国でEVの進展を目の当たりにし、「これからはEVに対応しないと市場で勝つことはできない」と危機感を覚えました。
特に中国では電動二輪がスタンダードになり、すでに生活者の一般的な交通手段に置き換わっています。私は2021年の3月、9年に及ぶ中国での赴任を終えて帰国することが決まり、このタイミングでムサシでも「EV事業に携われたら」と考えるようになりました。

私のキャリアが大きく動いたのは、同年8月のことです。モーターサイクルの電動化に対応した新製品の開発を行う新規事業「ユニコーンプロジェクト」に、プロジェクトリーダーとして就任する事になり、私自身も他部署の兼任から専任へと体制を新たにしました。理由は、同じ目線で事業を進めるため。部門をまたぐと開発や展開のスピードが落ちてしまうので、社長の決断と後押しにより一気に人事異動が行われたわけです。

社の命運を握る「ユニコーンプロジェクト」が始動

このプロジェクトにおける会社の狙いは、インド・アセアン地域での将来的な二輪車の総数増加を見込んでの対応と、ムサシとして「カーボンニュートラル社会」の実現を目指すことにあります。現在、二輪車体メーカーや配車サービスを手掛ける会社への販売を見据え、量産準備を進めています。

参考リリース: http://www.musashi.co.jp/newsrelease/news/arc_ride.html

一方で個人としては、社内のベンチャー事業だと考えています。既存事業に関係する大がかりな部品を、新製品として拡販するのは初めてのこと。ある種、実験的な組織だとも捉えています。

プロジェクト名に「ユニコーン」と名付けたのは、採算性のある事業として確立し、将来的なスピンオフを視野に入れているからです。やがてはユニコーン(創業から10年以内、企業評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業)になるという、目標や想いが込められています。

本製品は、モーターサイクルの電動化における課題をイノベーションで解決します。ムサシでは電動二輪車の普及を加速させ、持続可能な地球社会の実現に貢献していきます。

予想外の連続、コトを売るという発想

ユニコーンプロジェクトでは、従来の営業活動ではありえない「予想外」がいくつも起こりました。特に顕著だったのは、ベンチャー企業やスタートアップ企業との商談です。

これまでのムサシの常識では、お客様から与えられたスペック(仕様書)や図面からモノを作り始めるのですが、それが曖昧だったり、なかったりするのです。要は車両として壊れた経験や歴史が少ないため、必要な部品が何なのかの検討がつかないという……。

ただ、似たようなことは中国駐在時代にも経験しました。先方から「大きな電気自動車のSUVを作りたいんだけど、どんな部品が必要なんだ?」と聞かれたことがあるんです。最終的なアウトプットだけが示され、その開発プロセスは私たちが逆算して考えるしかないという状況に、当時はかなり面食らいました。

同じ事業部の仲間とも、「これだけの守備範囲(スペックやサイズ)があれば何があっても壊れないだろう」と相談しながら、どうにか乗り越えたのを覚えています。

このように、今までムサシの社員が経験してこなかった販売スタイルに考え方を改め、一緒に同じ方向を向かなければならない。ただこの調整は大変ではあるものの、新しいビジネスの機会になるとも捉えています。

モノを売るのではなくコトを売るという、コンサルテーションの側面に付加価値を付けたデータビジネスへの転換。中国で経験したことを、このプロジェクトに還元することで、さらなる成長につなげていければと考えています。

水平分業のメリットと今後の課題

一方で、これから対応しなければならない課題もあります。「他部門との連携」です。

私たちのプロジェクトはこれまで、競争優位性を得るための戦略として、水平分業を取り入れてきました。社長から与えられた「市場ができあがる前にポジションを確立せよ」というミッションを達成するためです。

これは「椅子取りゲーム」に似ていて、先に座るのが早ければ早いほど、競争に巻き込まれずに済みます。そして市場が出来上がる頃には椅子が大きくなっていて。空いた椅子も無い。

しかし水平分業とはいえ、今後は他部門の協力を仰ぐ必要があります。製品の開発と販売にフォーカスしてきた私たちには、モノを作って生産する機能がないからです。

その時の懸念が、スペック(仕様書)が無いところからモノづくりをするという未知の取り組みへの反応です。「わからない」と戸惑いが生まれる可能性もあります。

しかし前例がないところに挑戦する以上、「わからない」という問題には今後も必ずぶつかるわけです。だからこそ、そこに答えを出すのが私たちの役目なんだと思います。

EV普及の先を見据えたデータビジネス展開

日本の生活者の目線からすれば、EVの普及はまだ黎明期という印象だと思います。2016年頃の中国の四輪自動車市場もそうでした。でもそこからあっという間に市場は何倍も急拡大しています。

すでに製品化されたものが海外で展開、普及していく。中国で起きたことがアジア全体で起こり、やがてアフリカなど別の国にも市場が広がっていく。そう考えると、今が勝負、大事な時期なんです。その時にきっと、私が中国で見てきた光景や経験が生きてくると考えています。
具体的には、充電スタンドなどのインフラが街の中で整い始め、普及し、市場として広がる。これが中国の深圳市でみた光景でした。街と街を繋ぐ乗り物としてではなく、街の中で完結する乗り物として普及していったという印象です。

化石燃料から電気に転換されることで、ライフスタイルの変化も予想されます。

そこを私たちはデータビジネスで仕掛けられたらと思っているんです。今、まさに構想を練っている段階ですが、データを起点にした新たなマネタイズ機会の創出が、このプロジェクトの成長にも大きく貢献すると思っています。

電動化時代の「キーデバイスサプライヤー」へ

私たちには、電動化時代のキーデバイスサプライヤーになるという目標があります。その実現のためのキーワードが「仲間づくり」です。

志を持ってEV市場に挑戦するスタートアップとは積極的に組んでいきたいですし、二輪に携わるメーカーとも電動化に対応するのであれば「仲間」と捉え、一緒に手を取り合ってビジネスを広げていきたい考えです。
その先には、2021年の5月に当社が発表した「ムサシカーボンニュートラル宣言」を実現できるユニコーン企業になるという目標があります。

私たちの描く未来は、コロナ禍のインド北部で、200キロ近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせるようになったというニュースの映像そのものです。CO2を削減し、環境問題を解決する。電動二輪の普及によって社会に貢献できると信じ、これからも頑張っていきたいと思います。

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