独自のAI技術を開発。「搬送・検査」の自動化を実現したMusashi AIの取り組み━━代表取締役 村田宗太

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2018年1月、武蔵精密工業(以下、ムサシ)の社内でAI Projectが発足 。3名で始まった小さな取り組みは、翌年7月にはMusashi AI 株式会社の設立へと発展しました。

代表を務めるのは、AI Project のリーダーでもあった村田宗太さん。これまでもエンジニアとしてムサシのテクノロジー技術に貢献し、製造現場の自動化・効率化を様々な工程で実現させてきました。

今回のインタビューではAI技術の開発秘話や導入事例に加え、Musashi AIとして描く今後のビジョンなどを語ってもらいました。
村田 宗太
工機事業部の技術者として、2006年8月に武蔵精密工業へ入社。これまで手動で行われていた製造現場の作業を自動化させるため、技術者としてプログラミング業務などに従事。2015年に工機事業部のチーフへ昇格。2018年にAI Projectのリーダーに任命された後、2019年にMusashi AIの代表取締役に就任。

社内プロジェクトから始まったMusashi AIの躍進

私はこれまでムサシの技術者として、生産現場の「自動化」を進めてきました。入社当時の15年以上前は作業工程の多くが手動で、生産性の面でも効率化が大きな課題でした。
この問題を解決するために活用したのがロボットです。私は主に「ピッキング・材料投入」「組み立て」「加工・搬送」「検査」の分野で自動化を図ってきました。

「インライン画像検査」についても、AI技術の実用化が困難だった当時でも、作業基準書にて明確な検査基準(閾値)が設けられている場合は自動化を進められたのです。

そうした中、2017年頃からムサシ社内ではAI技術への関心が高まり、2018年1月には正式に「AI Project」と呼ばれる取り組みが始まりました。

私はそこでリーダーを担い、AIを活用した具体的な方針を固めていきました。スタートアップ企業を始め、各社でディープラーニングなどAI技術の開発が進む中、他社との優位性を築く必要もありました。

そこで最初に取り組んだのは、ムサシ社内における生産現場の課題をAIの力で解決することでした。実際にヒアリングを進めていくと、「搬送」と「検査」の部分で自動化が進んでいないことがわかったのです。
特にニーズが大きかったのが、デファレンシャルアッセンブリィ(エンジントルクを入力軸から受け、左搬送と検査の要因比率がそれぞれ2割右のタイヤに適正な回転差をつけて配分する)の構成部品、ベベルギヤの不良品識別でした。

ベベルギヤは、これまで目視で検査されてきた部品です。

通常の部品であれば機械加工により表面上が均一になるのですが、このギヤは「精密鍛造」と呼ばれるムサシの特殊技術で加工する関係もあり、良品であっても細微なバラつきがあります。つまり、従来の技術では機械による検査が難しく、人の目に頼る必要があったのです。

しかし、不良発生率は0.002%で、50,000個に1つの割合。それを1個あたり2秒で検査する作業を長時間にわたって実施するのは、あまりに負荷が大きいと言わざるを得ません。

この環境をAIで解決できれば、現場だけでなく、会社にとっても大きなメリットがあると考え開発に着手しました。こうして完成したのが「AI外観検査装置」です。

初めての開発対象部品をベベルギヤにしたのは、大変な苦労が有りました。
ですが、その甲斐も有り、今では我々のAI外観検査機の対象部品は様々な部品へ展開をする事が出来ています。
こちらの製品はムサシの生産現場の自動化に貢献しただけでなく、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)様への導入実績を始め、様々なシーンで活躍を見せています。



参考:https://www.musashi.co.jp/newsrelease/musashi_aiai_1.html

技術開発におけるMusashi AIのアドバンテージ

2018年に始まったAIの開発プロジェクトは、立ち上げからおよそ1年でムサシの生産ラインに実装されました。



一般的にAI技術の開発は、試作品を作りPoC(概念検証)を終えた段階でプロジェクトが立ち行かなくなり、社会実装まで至らないことも多いものです。こうした状況も珍しくない中、当社が商品化を短い期間で実現させるには色々と苦労もありました。

特に自動車部品は、わずかな不具合が事故につながる可能性もあります。加えてムサシは、グローバルな生産・販売体制を持つ企業ですので、品質基準も極めて高く設定してあります。つまり、高い精度で検査できるソリューションでなければ、社内からも評価してもらえないわけです。

その一方で、この環境は大きなアドバンテージにもなりました。AIのソフトウェア開発をする企業の多くは、PoCなどを外部の企業と連携して行う必要がありますが、Musashi AIの場合は開発から実証実験までを社内でワンストップで実施できます。

お客様に対して「一緒にPoCをしませんか、研究開発をしませんか?」という提案ではなく、すぐに商品としてご提案できることにMusashi AI最大の強みがあると考えています。

苦労した点といえば、採用活動や組織作りの課題も挙げられます。ムサシがこれまで採用してきた人材とは求めるスキルが異なりますし、営業チームにはAIに関する知識の習得も不可欠でした。

そのため新たな採用基準を設計したり、日本ディープラーニング協会(JDLA)が提供するG検定の取得などを通して、AI技術の説明を営業メンバー全員ができるような体制を整える必要もありました。

組織が順調に機能するまで大変なことも多くありましたが、結果的にこれらの取り組みはMusashii AIの強みになっています。ものづくりの専門用語が飛び交う現場でもスムーズな会話を進められることもあり、製造メーカーに対する高い提案力へとつながっています。

世界へ向けて展開するMusashi AIの事業戦略

Musashi AIの取り組みはグローバルにも発展しています。2022年7月にはカナダのオンタリオ州にある都市・ウォータールーに「Musashi AI North America」が設立されました。これには大きく2つの理由があります。

1つは優秀なエンジニアが北米に多く集まっている点です。AI技術の幅を広げ、Musashi AIの根幹となるアルゴリズムを開発することで、世界をリードする力を養っていく狙いがあります。

2つめの理由は市場の大きさです。国別のクラウド支出とその成長に関する調査(引用元:Gartner)によると、米国がIT環境のクラウド化において世界でもっとも進んでいます。比べて日本は、米国市場よりも7年遅れているとの見解が示されています。
引用元:https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/1912/20/news008.html

販売戦略において、市場を見誤れば他社から大きな遅れを取ってしまいます。AIの先端技術を扱う私たちにとっては、IT環境のクラウド化は切っても切り離せない関係です。どんなに良いものを開発しても、採用される場がなければ事業は衰退してしまいます。

まずは市場のある北米で優先的に動き、然るべきタイミングで後続国、後進国にも参入し、日本市場市場も成熟させていく考えが構想としてあるわけです。

Musashi AI、ブランドスローガンの実現に向けて

自動車業界は、今まさに変革の時を迎えています。EV(電気自動車)シフトによって静音性が求められれば、検査機の精度もより高度なものが求められるでしょう。

前述したように日本はAIやクラウドなどの新技術に対してコンサバティブ(保守的)な側面があります。Musashi AIとしては率先して日本市場をリードしていける会社を目指しており、現時点においてもITの世界トップレベルの企業との協業も見据えて動いています。

その結果として、自動車の完成車メーカーやOEM、Tier1の部品供給メーカーなどの企業に向けた安心の品質・サービスを提供することが目下の目指すところです。

また、当社では外観検査機事業に留まらず、内外の事業者と連携した「人とAIによる新しい現場作り」にも力を入れています。そのうちの一つに、最先端のAI技術を持つイスラエルのSixAI Ltd.との合弁で設立された、634 AI Ltd(以下、634AI)があります。

634AIでは2021年8月に、Musashi AIと3PL(Third Party Logistics)大手の鈴与株式会社様と連携し、AMR(Autonomous Mobile Robot=自律走行搬送ロボット)のPoC(システム導入に向けた実証実験)に成功しました。
写真引用元:https://www.musashi.co.jp/newsrelease/musashi_ai634ai3_amr.html

これは「検査」におけるAI・ロボットの導入だけでなく、「搬送」の領域においても同様の自動化を進められることを意味しています。

搬送については、自動車産業に限らず、物流や農業、医療機器や住宅設備の領域でもニーズがあるため、今後はより幅広い活動も視野に入れています。
その根幹にあるのは、Musashi AIが創業時に掲げたスローガンです。

『人間はもっと人間らしい仕事を(Human Jobs for Human)』

かつて世界に初めてパソコンやインターネットが登場した頃、機械に人間の仕事が奪われるという議論がありました。同じことが今、AI技術の文脈でも起こっています。

しかし私たちが見ている世界は、長時間・高負荷の単純作業をAIにより置き換え、人間がもっと付加価値の高い創造的な仕事に集中できる未来です。

Musashi AIは、「少子高齢化」「品質問題」「働き方改革」の課題をテクノロジーの力で解決することで、社会に貢献する企業を目指しています。

AI技術はものづくりを最適化させ、人に依存した品質管理を脱却し、結果として労働力不足の解消に向かう。その結果、少子高齢化などの社会課題を解決していく考えです。

これから先、どの時代になっても「人が人らしく働く」というテーマには終わりがないと思っています。だからこそ探求していく。

それが私たちMusashi AIにおける、最大の社会的存在意義だからです。

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