イノベーション拠点「CLUE」にてPR実践プログラムを開催。地元地域にスタートアップ・エコシステム創出の試み

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2018年より武蔵精密工業では、新規事業創出の積極的な取り組みを続けています。今回ご紹介するのは、 株式会社ハッシン会議との共催企画 「次世代PR力を磨く実践型プログラム」です。

スタートアップ企業特化型の、中部地方初となるPRプログラムとして2022年1月から3月まで全6回を開催しました。会場は地域発のイノベーション創出拠点MUSASHi Innovation Lab CLUE(以下、CLUE)とオンラインのハイブリッド形式で実施。

今回の取り組みについて、常務執行役員CIO(Chief Innovation Officer)の伊作猛(以下、伊作)と、MUSASHi Innovation Lab CLUE イノベーションデザイナー鈴木隆文(以下、鈴木)の二人に、企画の背景と今後の展望についてインタビュー取材しました。
伊作 猛(写真右)
常務執行役員 CIO:Chief Innovation Officer(最高イノベーション責任者)
社内スタートアップのアクセラレーションに加えCVC Directorとして10件以上のスタートアップ投資を担当。

鈴木隆文(写真左)
MUSASHi Innovation Lab CLUE イノベーションデザイナー
イノベーション創出に向けて、新規事業創造プログラム、ピッチイベントなどを実施。

東三河発のスタートアップ・エコシステム構築へ

冒頭インタビューでは、武蔵精密工業(以下、ムサシ)のイノベーション創出に関する取り組みと、CLUE設立の背景から話を聞きました。

伊作 自動車部品サプライヤーとして成長してきたムサシでは、2015年頃から本格化した電動化や自動運転の流れを受け、今後の自動車産業の未来に対し課題意識を持つようになりました。そこで考えたのが、ムサシのコアであるテクノロジーを主軸にした新規事業の創出です。

社内ベンチャー設立を支援するインキュベーションプログラム「東三河 Innovator's Gate」を2017年から開催するほか、海外スタートアップを支援するCVCの設立や、社内技術を深めるためのジョイントベンチャー、新たな事業モデルを確立するM&Aなど、積極的に取り組みを続けてきました。

CLUE立ち上げのきっかけとなったのは、2018年1月のシリコンバレー視察です。イノベーションの中心地とされる地へ、社長を含めた役員たちと向かいました。

そこで私たちが感銘を受けたのは、スタートアップ・エコシステムが構築されていることでした。イノベーションを生むべく人々が集まり、ピッチや投資が方々で行われ、化学反応が至る所で生まれる環境がシリコンバレーにはあったのです。

そこで考えたのが「地元、豊橋市に自分たちの手でスタートアップ・エコシステムを構築しよう」ということでした。その取り組みの一つとして誕生したのが、地域発イノベーション創出拠点のCLUEというわけです。
鈴木 CLUEでは、イノベーションに挑戦するすべての人に飛躍のチャンスを提供することを目的に、法人会員・個人会員の皆様に、PLACE(非日常空間)、PEOPLE(多様性のある化学反応)、PROCESS(デザイン思考/ピッチ)の「3つの提供価値」を届けることを謳っています。

各種ブース、ステージ、スペースを用意しており、年間40本以上のイベントや企画を運営しています。先ほど説明にあった「東三河Innovator's Gate」もCLUEで毎年開催しており、今回の「次世代PR力を磨く実践型プログラム」も、ハッシン会議さんとCLUEとの共催になっています。

スタートアップに不可欠な「伝わるPR・SNS発信」

これまで社内ベンチャー制度から2社のスピンアウトを生んでいるムサシにとって、新たにPRやSNSの支援環境を構築する目的はどこにあるのか。「次世代PR力を磨く実践型プログラム」の開催背景について話を聞きました。

伊作 「Innovator's Gate」の第1回開催では、 アグリトリオicuco(イクコ)の2つの事業が誕生し、現在ではスピンアウトして、それぞれに運営がされています。このような0→1で社内ベンチャーを生み出す仕組みが整う一方、1→10に広げる活動の支援に課題を感じるようになりました。

どんなに素晴らしい事業も、認知が広がらないかぎりイノベーションにはつながらない。その点に気づいてからは、PRの重要性を強く感じています。

もう少し広い視点で見ると、2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択されたSDGsが注目を集めている通り、事業を通して社会貢献をすることが必須になっている背景があります。

CLUEとしても社会的意義の高い取り組みを推奨していますが、一方でサステナブルな事業モデルを作る難しさがあります。この原因の1つが「PR力」の不足です。どれだけ素晴らしいアイデアも、応援者が少なければその事業は広がりません。

Public Relations(=PR)は、組織と個人・集団・社会との望ましい関係性・つながりを作るスキルです。伝える発信ではなく “伝わる発信” ができれなければ、記者やメディアの方々の関心を集めることも、個人や法人からの応援を得ることも難しくなります。

特にスタートアップに対しては、PRは「やらなければいけないもの」ではなく、PRこそが戦略の根幹であると認識してほしいと思っています。
鈴木 スタートアップ・エコシステムを作り上げる意味では、社内の連携や地域とのつながりを一層強化したい狙いもありました。

実際にムサシの社内でも、まだまだ広報部門と事業部門との連携は活性化できると思います。しかしそうではなく、チームとして一体となり、PRをしていける環境が築ければ発信力も一層強化されると思っています。

また、スタートアップが育つ環境作りとともに、地域のレガシーな事業会社が成長する機会を提供していくことで、この東三河に人や情報が集まり、ネットワークとなる。そんな相乗効果が生まれるのではという期待がありました。

参加企業が次々とメディアに掲載、PRの学びを発揮

ここからは「次世代PR力を磨く実践型プログラム」を通して得られた成果を、運営者側の視点と参加者側の視点から確認していきます。実際にメディアに取り上げられたという事例から、社内のコミュニケーションの活性化など、目に見える変化があるといいます。

鈴木 まずは率直に、プレスリリースの書き方が勉強になりました。すでに広報の仕事をしている人にとっても記者の視点で考える思考法、具体的な数字や社会性を盛り込む書き方などは、プロの方から添削やフィードバックを受ける過程で発見も多かったと思います。

そして一番の成果は、各参加企業の方々が実際にメディアから取材を受け、記事として紹介してもらえたことだと思います。特にスタートアップにとっては、社会から信用を勝ち取るための重要な一歩になったはずです。

参加者の方々からの声を聞くと、「参加企業同士でタイアップの話が生まれた」「普段は交流のない地元地域の企業とつながりが作れた」など、集合研修ならではの魅力を体験できた方も多かったのではと感じています。

伊作 私が印象的だったのは、プログラム全6回のうち、ラスト2回で組まれた「模擬記者発表会」と本番の「合同記者会見」でした。PRには普段かかわっていないメンバーも多く、どうしても練習段階では不慣れな人も多くいました。

伝えたい内容の焦点が絞れていなかったり、営業セミナーで話すような伝え方になっていたり、と言う具合です。それが最後の一週間で一気にブラッシュアップされ、本番当日には記者からの質問も活発にあり、それに対する受け答えも見事なものになっていました。

ここで身につけた力は、PRや発信の場だけでなく、社内でのコミュニケーションのシーンでも役に立っていると感じています。世の中がオンライン中心の働き方にシフトしていったことから、自分の仕事や取り組みを社内に発信することの意義は日に日に高まっています。改めてPRのスキルは、あらゆる場面に使えるものだと実感しています。

東三河発・グローバルなスタートアップ支援を目指して

「次世代PR力を磨く実践型プログラム」の第1回開催を終えた今、2022年秋を目処に第2回開催を計画しています。そこで最後に、今後の取り組みに対してPRはどのように位置づけになっていくのかをビジョンとともに語ってもらいました。

鈴木 第2回の開催に向けては、今回参加していない地元企業の方々にも参加していただけるよう働きかけていきたいと考えています。

ローカル新聞などに掲載されたことはあっても、全国的にメディアで取り上げられた経験がある企業はまだ多くはないはずです。素晴らしい取り組みの企業が多いので、CLUEを起点に地域の良さを全国に伝えていければと思っています。

中長期の視点では、CLUEとしてのPR力をさらに磨き、国内だけでなく海外への発信力を持つ場所に育てていきたい考えです。

映像を使った取り組みや英語での発信も積極的に進めていく必要があると思い、現在はクリエイティブ・スタジオとしても活用していただけるような機材の準備なども進めています。将来的には、豊橋発のグローバルなスタートアップを支援できる場所を目指したいですね。
伊作 2020年のSDGs調査では、豊橋市が生活満足度調査で1位に輝いています。これ自体は非常に素晴らしい結果なのですが、スタートアップ・エコシステムを築いていくという意味では、ある種の危機感が足りないという見方もできます。

ムサシは世界14ヶ国に拠点があり、現在進行形でCVCやM&A、ジョイントベンチャーなどを進める中で世界の情報が集まる企業になりつつあります。これを地域に還元し、豊橋にいても世界とつながり、海外の先端技術とともにイノベーションを生み出すためには、新たな仕掛けも必要だと感じています。

現在インターネットを使えば、いつでもどこでも、誰であっても情報が得られる時代になりました。しかし地理的なギャップがなくなった代わりに、自ら取りに行かなければ、新しい変化や最新の技術を学ぶことは難しくなりました。
解決の方法の1つとして、国や県がリードするイノベーターのネットワークや構想にCLUEも参加することが考えられますが、これを世界にまで拡大し、東三河からイノベーションが起きる状態にまでする。それがCLUEの役割だと思っています。

そしてもう1つ、スタートアップとして上場を本気で視野に入れるのであれば、ガバナンスの構築やIPOからバックキャストすることが求められます。ここで重要なのがPRです。

IPOに向けて何を社会に伝え、どのようなビジョンで投資家を招き入れ、製品開発もPRのスケジュールに併せて開発を進めるという発想。こういったことを参加者の方々に身につけていただく意味でも、「次世代PR力を磨く実践型プログラム」は今後もCLUEにとって大きな意味を持つと考えています。


▼MUSASHi Innovation Labo CLUE
https://www.musashi.co.jp/clue/

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