マネジメントメッセージ

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CEOメッセージ

限界や常識という枠を壊し、
新たな価値を創造

武蔵精密工業株式会社
代表取締役社長・最高経営責任者
大塚 浩史

ムサシの歴史は挑戦の歴史

世界経済は新型コロナウイルスにより大きな打撃を受け、自動車業界は生産停止や減産を余儀なくされました。21年度末に向けて経済が動き出し、欧米を中心に回復基調に転じましたが、一方で半導体の不足といった新たな問題も発生しています。さらに中長期的に事業環境を見た場合、自動車業界はEV化へ大きくシフトをしようとしています。この変化は見方によっては脅威ですが、動き方によっては創業以来最大の機会でもあります。

ムサシの83年間、それは挑戦の歴史です。その集大成がムサシフィロソフィーと呼ばれる企業理念であり、このたび掲げた「Musashi 100th Year Vision(ムサシ100周年ビジョン)」にも繋がっています。当社の創業者で私の祖父である大塚美春は14歳から丁稚奉公し、複数の職場を転々とした後に中島飛行機に就職。朝は誰よりも早く工場に行き、夜は誰よりも遅くまで仕事をしていました。1938年に一旗揚げようとした大塚美春は、東京で航空機部品を作る会社を立ち上げます。航空機産業が飛躍的に伸びて事業は大成功しましたが、終戦とともに事業自体が消滅し、地元である愛知県豊橋市に戻ってきました。1947年、戦後の衣食住が足らない時代にミシン部品を生産する事業を開始します。「天秤カム」というミシンにとってのキーデバイスを扱い、高い技術力に加え、JIS規格に登録されたこともありビジネスは順調でした。その頃に大塚美春は本田宗一郎氏と出会い、オートバイ部品の生産へ参入します。オートバイの未来を信じた大塚美春は、順調だったミシン部品の製造を打ち切り、大きな業態転換を図りました。数十社あった顧客先は、たった1社に。一般的なビジネススクールでは「ビジネス安定化のために顧客を多様化せよ」と教えられますが、大塚美春はその真逆を選択しました。しかし、もしこの決断と挑戦がなかったら、そして本田宗一郎氏との出会いがなければ、現在のムサシはなかったでしょう。

その後は二輪車部品から四輪車部品へ事業を拡大し、オイルショックなどを乗り越えて成長しました。その後、グローバル化に舵を切り1978年に米国進出、1980年代後半にはアジア進出を果たします。1990年代から2000年代にかけてはイギリス、カナダ、ブラジル、ハンガリー、インド、中国などにも進出してグローバル化を加速させました。この頃までのムサシはお客さんの図面通りに一生懸命作る会社で、そこを顧客からは評価されていました。2006年に私は社長になりますが、私はムサシを研究開発型の会社にしたいという強い想いを持っていました。そこで技術開発の集約拠点である「ムサシグローバルセンター」を設立します。2008年10月の竣工です。ご存知の通り、その後リーマンショックがあり、一時的に経営危機に陥りました。当時、たった3人でスタートした研究開発チームですが、現在は150名規模にまで拡大し、私たちの競争優位性となっています。今、EV化をチャンスに世界トップシェアを狙う戦略商品であるデファレンシャルもこの開発センターから生まれました。

その後、2016年にはドイツの鍛造メーカーHAY Holding GmbH(現Musashi Europe GmbH)をグループに加え、世界のメガサプライヤーとも戦える体制を構築。様々な局面を「変わること」で乗り越え、挑戦しながら成長してきた会社だと自負しています。

知の【深化】と
知の【探索】で未来へ

そして、今、自動車業界は100年に一度と言われる大きな変革の最中にいます。そこで私たちは、100周年を迎える2038年をゴールとして目指す姿「ムサシ100年ビジョン」を掲げ、同時に「Our Purpose(ムサシの使命)」を公表しました。世界は環境破壊、貧困、食料不安、経済危機、高齢化社会等の課題に直面しています。利益や事業の拡大のみを追求するのではなく、地球が守られ、人々が豊かな心で満たされるように、我々のものづくりに懸ける“情熱”を基盤に、世の中にある最先端の“テクノロジー”を積極的に取り入れ、受け継ぎ高めた“知恵”を活かし、世界が驚く“イノベーション”を創出することで、地球・自然・社会・人が調和したサステナブルで豊かな世界の実現に貢献していく企業グループを目指していきます。

具体的には「Our Way(行動指針)」にもあるように知の【深化】と【探索】で未来へと向かいます。知の深化とは、当社のコア事業である自動車部品事業の深掘りを進めることです。知の探索とは、新たな事業の創出です。スタートアップ企業への投資を実行しながら社会課題を解決する新たな事業を育てていくことを決意しました。

3つの勝ち技

私たちにとってEVへのシフトは、ピンチでもあり、チャンスでもあります。これまで自動車のフルモデルチェンジは4年~5年周期とされていましたが、最近では6年以上と長期化傾向にあります。エンジンやトランスミッションの変更は10年~15年に一度です。我々のように重要保安部品を扱うメーカーは、その時にしか参入機会がありません。しかし現在は世界中の自動車メーカーがEVの開発競争をしており、開発案件が山のようにあるのが現状です。これまで自動車業界は過去の性能を超えることを追求してきましたが、EV化は全く別の次元の話です。部品点数で見てもガソリン車は約3万点あると言われていますが、EV車の場合は1万~1万5千点。部品サプライヤーは近い将来半分以下になる可能性さえあります。勝者となる可能性と敗者となる可能性が混在している状況です。

そこで私たちは、厳しい時代を生き残るために「3つの勝ち技」を考えています。1つ目が電動化時代の主役となるキーデバイスサプライヤーとなること。我々に強みがあるデファレンシャルはEVのキーデバイスの一つで、モーターで発生した動力を伝達するための歯車です。私たちは数十年にわたって積み重ねてきたテクノロジーに最新のデジタル技術を取り入れ、この伝達機能の最適化に取り組んできました。その結果、小型で軽量、高強度のEV用減速機ユニットの開発に成功しました。動力源が静かなモーターで動くEVは、静音性が特に求められます。また、ガソリン車よりも大きな負荷がかかるので、高い強度も求められます。これはモビリティの歯車に特化した専門メーカーでないと作ることは難しい技術であり、重要なパーツです。私たちはおそらく、世界で最もモビリティ用の歯車を作ってきた会社の一つであり、この経験と高い技術力がEVでも優位性を発揮することができます。また、歯車の技術を活かし、減速ギヤとデファレンシャルアッセンブリィを組み合わせた小型で軽量な減速機ユニットの開発を更に進め、世界一を目指していきたいと考えています。

2つ目は、一貫生産体制を備えたグローバルな生産拠点網です。現在は14カ国に35拠点ありますが、一般的にはガソリンエンジンから電気モーターに変わる際、同じインフラを使うことが難しいとされています。それがレガシーコストとして負担になるケースが多いのですが、当社はガソリン車のギヤをEVにも使用できるように従来のインフラを進化させることでレガシーコストをミニマム化し、世界での競争力を高めています。我々が数十年で数百億円を投資して作り上げたインフラを、ここ数年で参入をした新興メーカーが整備できるはずがなく、これも私たちの競争優位性と言えます。

3つ目は、グローバルでの強固な顧客基盤です。私たちの顧客ポートフォリオは大変バランスが取れていて、お客様とは何十年にも及ぶ交流の中で強い信頼関係で結ばれていると信じています。この強固な顧客基盤を活かしながら、新たな成長に繋げていきます。

テクノロジーで社会を支える
「エッセンシャルカンパニー」へ

自動車産業のサプライチェーンは、伝統的な完成車を作るメーカーを頂点とした垂直統合のピラミッド型から、それぞれが自分の持ち味を発揮することが求められる水平分業型へと移行しています。私たちは100年ビジョンとして「Go Far Beyond!枠を壊し冒険に出かけよう!」を掲げましたが、自動車業界も「系列」という枠が壊れつつあります。カーメーカーは自動車を生産するだけでなく、自動運転や新たなサービス(SaaS等)などたくさんの開発テーマに取り組まなくてはなりません。そのため今まで自社内で行っていた事業をどんどんアウトソーシング化しています。私たちは世界に拡がる一貫生産体制を活かして、その機会に挑み、成長に繋げたいと考えています。

私たちもAIやカーボンニュートラルといった新しいプロジェクトは、ピラミッド型の組織では達成し難しいと感じています。なぜならば、過去の経験値が大きいほど未来に対するフレキシビリティが低下するからです。経験値が浅くても情熱とバイタリティのある若者の方が、今までやったことのないプロジェクトには適しています。「自ら限界を壊し、ワクワクする仕事をしよう。組織や風土の壁を壊し、常に変革を起こそう。常識や既成概念を壊し、世界をあっと驚かそう。」 私たちは自動車部品メーカーの枠を超えて、テクノロジーで社会を支える「エッセンシャルカンパニー」へと変わっていきます。

新規事業の方向性

新規事業に関しては、マテリアリティ(重要課題)で特定をしたサステナブルな次世代社会システムの創出に向けて、我々のテクノロジーを総動員して実現していきたいと思います。私たちが海外へ進出する際、創業者は「その土地の人たちに尊敬される存在になりなさい」「その国とその国の人たちのために事業をやりなさい」という教えをくださいました。質実剛健という自主自立の精神、至誠一貫という共存共栄の精神。これが「Our Origin(創業の精神)」です。新たなテクノロジーによる事業活動を通じて、人と地球社会を豊かにしていくという考えは、脈々と受け継がれてきたムサシの原点に通じます。

特にパートナーシップは重要です。私はオープンイノベーションという考え方に共感しています。イノベーションの原則は異質なものの掛け合わせですから、決して1社ではできません。スタートアップ企業への投資については、技術やファイナンス、社会的意義を重要視した上で、最終的には経営トップの人間性を見てパートナーを決めています。ある意味で理屈を超えたご縁を大切にしています。モビリティ、エネルギー、インダストリー、ウェルビーイング。この4つの大きな方向性をベースに世界各国の様々なパートナーとの関係性を強化し、オープンイノベーションで新しい未来を作っていきます。

私たちは圧倒的に
ピンチに強い

ムサシグループの最も重要な見えない資産は「人財」です。これまで幾度となく、ピンチを乗り越えてきた経験は文化となって根付き、DNAとして受け継がれています。私たちの人財は圧倒的にピンチや変化に強い。ピンチを乗り越える際のチームワーク、熱量は本当にすごい。今回も新型コロナウィルスによるパンデミック、自動車業界の100年に一度の大変革期、気候変動への対応など様々な事業環境の変化がありますが、私たちは新たなビジョンに向けて情熱を傾けて邁進します。私たちは、必ずやり遂げます。

今後のムサシに、是非ご期待ください。

CFOメッセージ

Go Far Beyond!
~Let's go on an adventure!~

武蔵精密工業株式会社
取締役 常務執行役員
Tracey Sivill

ムサシグループのCFOとして5期目を終えようとしている今、私はこれまで以上に未来への旅立ちに興奮しています。ムサシは変化する世界の期待に応え、それを超え、社会への貢献を高め、ビジネスを成長させるための強固な基盤を築いています。ムサシの歴史とフィロソフィーは、組織の中に深く刻み込まれており、これからの課題に立ち向かうためのレジリエンスと興奮に満ちた文化を生み出しています。

2021年度は世界中でCOVID-19が流行し、自動車業界に大きな混乱をもたらしました。グローバルなサプライチェーンの混乱やインフレ影響など、絶えず変化する状況の組み合わせにより、生産の不安定さが常態化し、年の後半には全地域がその影響を受けました。半導体の不足とCOVID-19流行による減産、それに加えて世界各地で発生した物流や港湾の遅延などが自動車業界に今も続く供給問題を引き起こし、工場の円滑な操業に影響を与えました。また生産の不安定さやインフレの影響もあり、利益面でも厳しい結果となりました。当社は、これらの様々な影響を受けながらも、EBITDAを維持し、バランスシートを健全に保つための施策を実施し、需要が不透明な状況に対応しています。

世界の行動規制が刻々と変化する中、ムサシは世界のリーダーとして、各国のガイドラインを遵守し、世界の人々を守る精神を尊重しています。この精神に基づき、私たちはリモート機能を開発・強化することで機動性の低下に対応してきました。この20カ月間、私たちはテクノロジーを活用してつながりを保ち、ムサシ本社が提供する多くの機能やサポートの改善を見てきました。その一例として、エンジニアリングチームがバーチャルツールを活用し、海外の子会社を現場でサポートし続けています。また財務チームでは、グローバル・オペレーティング・システムの活用により、連携と情報提供が強化されています。近い将来、安全に出張を再開できることを願っています。

ムサシの財務チームは、効率的なシステムとプロセスを通じて、株主と経営陣のために透明性を高めるために世界中で努力しています。ムサシは、SAP S/4オペレーティングシステムをいち早く導入した企業のひとつです。標準システムは、業務の真の透明性を提供し、状況を明確に把握し、問題点を迅速に経営陣に指示し、ベストプラクティスをグローバルに共有することができます。ムサシは「昨日よりも良く」「最適な環境で」という業績目標を掲げ、工場ではイノベーションに欠かせない継続的改善に取り組んでいます。当社各地域のCFOグループによる指揮と団結した取り組みにより、私たちの知識を活用して、株主と従業員に最大限の利益をもたらすことができます。

世界の労働市場もまた大きな影響を受けています。ムサシは、AI、DX、GX戦略を駆使して「人間のための人間らしい仕事」を実現することで、従業員のモチベーションを高めています。Musashi AIは、エンジニアや生産者がより創造性を発揮できるように、高度な検査システムを開発しています。そして組織のあらゆる分野で、デジタルソリューションを従業員に提供し、日常作業や反復作業を減らしています。ムサシの強みはエンジニアリングであり、その強みを活かしてカーボンフットプリントを削減し、GXの目標に向けて取り組んでいきます。最終的な目標は、ムサシの使命である「人と環境が“調和”した豊かな地球社会の実現」に貢献することです。ムサシは“Great Place to Work”(働きがいのある会社)となることで、若い優秀な人材を惹きつけます。

私たちは、成長目標を達成する将来の製品ラインナップに力を注いでいます。EVへの急速なシフトに対して、ムサシは戦略的にデファレンシャル、減速ギヤの分野で商品を開発してきました。ムサシはギヤのスペシャリストとして、EV市場向けに軽量で強く、静粛性の高い商品を完成させ、一貫生産体制により競争力のある商品を世界中で生産することができます。これらのアドバンテージを活かし、ムサシは世界のEV市場で強力なキーデバイスサプライヤーとなることができます。この100年に一度の大変革期に対応するために、ムサシはここ数年、設備投資を増やしてきました。

また、将来に向けては、社会に必要とされる新しい事業を生み出す機会やパートナーシップも模索しています。私たちのCVCポートフォリオは、ムサシのコア事業との相乗効果を生み出します。私たちは、人と環境が調和した豊かな地球社会の実現を目指し、先見性のあるパートナーを探しています。こうしたスタートアップは非常にエキサイティングであり、その成長と社会貢献を楽しみにしています。

ムサシの歴史の中で、私が最も気に入っている言葉は、大塚公歳氏(2代目社長)の「常に一歩先をいく」という言葉です。ムサシは自分たちの商品に自信を持って未来を受け入れ、人々を成長させ、工場を守ることを約束します。私たちは、ムサシフィロソフィーに基づき、世界中の社員の力と情熱で、2038年のビジョンに向けてGo Far Beyond!を実現していきます。

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